稽古場日記・番外編1・・・オーディション且つワークショップ且つ稽古(中村彩乃:出演者)

「今日は稽古という形ですすめますね。」
という久野さんの言葉から、6/24のオーディション且つワークショップは始まりました。
というのも、階の現場では何かをつくるために稽古をするというより、何かをしてそれが何故起きたのかということをフィードバックして作品の全貌を少しずつ見定めるといったことが行われます。そのため、その手法を参加者の方に体験していただくことが一番互いを知ることの出来る切り口ではないか、と、このような形式に落ち着きました。
初回は20代~40代後半と様々な年齢の方がお越しくださいました。男女比はほぼ女性という偏りはありつつ、しかしそのようなことを感じさせない豊かな稽古場になりました。
さて。稽古ということで、上演台本を手に持ちいくつかのシーンを演者を入れ替えてやってみるという流れに。
最初は今公演で俳優参加の七井さんを主軸に、順番にシーンをまわしました。短いシーンながらも参加者の方々が個々に持つ特性というか持ち味と言いましょうか、そういうものが見え、互いの人となりを少しずつ見るといった様子でした。
シーンを演じ終えると、身を乗り出して観ていた久野さんから「今、何をしたんですか」という言葉かけが。返答は人それぞれながらも、どちらかというと、「○○をしようとした」「○○な人かなと思って」といったような、他者にどのように働きかけるか、といったことを考えていらっしゃるかたが多かったように感じます。その解釈の違いを知り、「同じテキストであるのにこうも違うのか!」といった具合に、ある時は笑いが、あるときは唸り声が、ある時は驚愕の悲鳴が上がりました。いやはや、興味深い。人の数だけ芝居は生まれるな、と改めて感じました。
それを受け、久野さんから指示がとびます。
「もう少しテンポをつめて」
「さっきよりゆっくり。間ももっと取って」
「よく自分が出す音程があると思うのですが、それ以外の音を出してください」
といった非常に具体的なものから、
「相手がどうでるかよく見て」
「常識的に読み解いてとかでなく、好きなことをして」
「ナンパをする下心溢れるゲスイ感じで」
「こんな奴いないだろう!みたいな」
(「火をはいてもいいですよ」という言葉かけもありましたが、さすがにそれは行われませんでした。ただし、同等の衝撃を与える芝居にはなりました。人間の可能性とは…)
といった、字面だけ見るとぶっ飛んでるようなものまで。とにかく行われるシーンを見て、「何がおこったのかのフィードバック」と「それを踏まえての、新しいその人なりの攻め方の提案」が久野さんを中心に繰り返されました。

私の主観かもしれませんが、そのような問いかけややりとりを繰り返すうちに、演じる方々の芝居が(テイストはどんなものであれ)“相手をよく聞く・よく見る”ということを最初の方より繊細にやってらっしゃる傾向にあったように思います。実際、後半に近づくにつれて久野さんの「今何をしたんですか」という問いかけに対しての返答が「なにも考える余裕が無くて、必死でやった」「相手の方がこうしてきたから…」といったような、働きかけのベクトルではなく、起こったことに反応するベクトルに変化していました。
また、演じている人間が「ええ!?そうくるの!?何!これ!?」と余裕のない芝居をしている時の方が、面白いことがよく起きたというのも印象的です。思ってもみない展開になったり、何故か会話が凄くかみ合っていたり、観ている側に笑いが起こったり発見が多かったりと、魅力的なシーンが出来ることが往々にありました。これは、相手の行動に対する対応を必死にしないといけない状況が、“相手をよく聞く・見る”ことを自然にさせていたためにおこったことではないでしょうか。
演じるときに自覚をもってコントロールすることも必要ですが、やはり人間と人間が対面したときに基盤として行われるのは、相手の存在に対応することです。それが行われている瞬間を立ち上がらせるためにどうするかを、知覚的にと感覚的に考えて言語化して探ることを、階の現場では大切になさっているのだと感じました。
また、興味深かったのは、一部の参加者の方からは「今までは同じことをビシッと再現することが良い俳優の前提であると思っていたから、驚いた」という言葉があったことです。
(…以下は、その言葉を受けて行われた会話を私なりの解釈した文章。)
「再現性」という言葉は難しいもので、確かに演者も台本も舞台も起こる出来事(シナリオ)も、舞台ではめったなことが無い限り本番中は変わりません。そういうことを踏まえると、作品のクオリティの安定感を求めるのは大切な考えです。
しかし、例えば「天気」「俳優の体調」「客席にいる人」という要素は日々変化し、微々たるものやもしれども作品に影響します。芝居の再現性という概念は、もはやその人の持つ演劇哲学まで食い込むようなものになるので十把一絡げに否定も肯定もできませんが、少なくともそのような「舞台であるがゆえに起きる変化による微々たる影響」を無視してもとめる再現性というのは、いささか舞台の生の魅力を少し軽減してしまう勿体無さがあるのではないではないでしょうか。
演出助手の斜さんによれば、全部で30テイクものシーンが創れたそうです。人数とシーン数は限られていますが、出来るシーンは無限大。時間のため、まだまだいろんな可能性が探れそうではありましたが終了に。初回オーディション且つワークショップ且つ稽古は、ホスト側の階メンバーにとっても、今後の可能性や広がりを大いに発見ができました。
このエントリーのカテゴリ : 点の階稽古場日記